2012年5月、女性専用車両について近鉄本社に抗議した当会会員に対し、近鉄本社社員が「女性専用車両は法に基づく強制的なものである」という趣旨の発言を行うという出来事がありました。
そこで当会では、この件について対応を行い、国土交通省に問い合わせるなどした結果、国土交通省から近鉄に対し「指導」が行われました。
国土交通省から指導を受けた近鉄が、その後、会社として女性専用車両をどのように認識しているか確かめるため、2012年11月に当会から近鉄に対し、「女性専用車両は法的な強制力があるものなのか、それとも任意協力なのか」についての質問状を送付いたしました。
先日、近鉄よりこの質問状に対する回答がありましたので、ここで報告いたします。
2012年5月の出来事
少し前の話になるが2012年5月、当会関西本部のある会員が、近鉄奈良線で個人的に非協力乗車を行っていたところ、駅員や助役などからしつこく声を掛けられた上、一緒に乗車してついて回られるなどしたため、近鉄本社に抗議した。
すると、近鉄本社社員から何と【(女性専用車両は)鉄道営業法34条に基づいており、強制である】という主旨のことを言われたのである。
当会がこれまで何度も言っているとおり、各鉄道事業者の監督省庁である国土交通省も「女性専用車両が任意である」(鉄道営業法34条2項は適用しない)ということは認めており、また任意協力であるからこそ、女性専用車両は現憲法下でも法的に問題ないということになっているのである。
しかしながら近鉄の本社社員の発言は、国土交通省などの見解を根底から覆すとんでもないものであり、もし本当にそうであるならば、私達が行っている非協力(任意確認)乗車活動も違法扱いになるかもしれない。
これは、近鉄の本社社員が勝手に言っているだけなのか、それとも国土交通省や他の鉄道事業者等も含め、全体の見解が変わったのかを突き止める必要がある。
そこで当会ではこの件について、国土交通省に問い合わせるなどして、対応を行った。
まずは以下、会員が乗車活動を行なった当日の状況などを、乗車活動を行った会員の個人ブログの記事よりご紹介。(※原文は長文のため、一部要約しています)
GW明けの月曜日、近鉄奈良線の女性専用車両を乗り回しました。
近鉄奈良線は以前驚くほどしつこい声かけを喰らった路線である。また平日朝のみの設定で普段は乗ることができないということもあり、今回は乗り放題パスを使って乗倒すことにした。
まず難波から快速急行(奈良方面は専用車の設定は無い)で奈良に向かった。奈良に到着したのは7時30分頃で、早速難波方面への快速急行の女性専用車両に乗車した。
なお、わずかに立ち客が出る程度の混雑であった。
発車間際に駅員らしき人物からお願いの声かけがあったが、はっきりと断りの旨を告げるとなぜか慌てて退散していった。そして無事発車となった。
おもしろいのはここからである。2つ目の停車駅である大和西大寺で女性社員を含めた駅員3名によるお出迎えがあった。
しかも、大慌てで車内を捜索し、私を見つけるとすっ飛んでお願いに来た。
しかも「話ならあちらでお聞きしますから、お降りください」とか言ってくる。
別にこちらは話すことなどないのだが…(笑)私はただ近鉄社員に絡まれただけである。
揚句の果てに首席助役の名札をつけた社員が「迷惑だ」とか「電車が遅れる」だの言い出したので、さすがに少し頭にきたが、たかだかお客のひとりに大慌ての様子が面白かったので、笑顔を振り撒いてやった。
結局、その首席助役が同乗することになり2、3分遅れでの発車となる。次の学園前でいったん下車し、次の快速急行の女性専用車両に乗り換えることにした。
その待ち時間に別の助役が現れ、先程の助役と交代し、私に付き添うことになった。
その後、学園前-生駒の間を往復して女性専用車両への乗車を続けたのだが、その助役がずっと付いてきた。さすがに欝陶しくなったので、生駒でサーッと助役を巻き、ひとり奈良に向かい。
折り返しで女性専用車両に乗った(これがその日の最後の女性専用車両設定列車であった)。
やはり奈良で声かけがあり、大和西大寺で交代で乗ってきた車掌が声かけをしてきた。お願いを断るとすぐさま車掌室の電話を使いだしたので、生駒でお出迎えかと思っていたら案の定であった。
しかもさっきまでくっついていた助役の再登場である。
ちなみにこの時もうひとり駅員がいて横柄な態度で私に突っ掛かろうとしていたのだが、例の助役がそれを制止して同乗してきた。そのまま女性専用車両の設定が解除される難波まで行き、乗車は終了となった。
ちなみに、私にしつこくついて回った理由を尋ねると、「他の女性客が驚かれるかもしれないので…」とか言っていた。が、それは女性専用車両などという紛らわしい名称を使っている近鉄が悪いのである。
あと、近鉄では、女性専用車両に男性が乗っていた場合、毎回このような応対をするという。だから、今後も定期的に近鉄の女性専用を乗り回すことにする。
このような対応を受けたため、その会員は以後も引き続き近鉄の女性専用車両で乗車活動を行うことにしたのだが、対応は相変わらずで、現場の職員に話しても埒が明かないため、先にも述べた通り、その会員は近鉄本社に抗議することにした。こちらも会員個人のブログ記事より(一部要約)
今日も近鉄の女性専用車両においてしつこい声かけがあったが、当人らに話してもラチが開かなかった。
そこで近鉄本社運輸課の社員にアポを取り、直接抗議することになった。
ここでまたしても驚かされることになる。
近鉄は「女性専用車両は鉄道営業法に則り運行している」と言い、さらに第34条を根拠として「強制である」と断言したのである。なお、国土交通省の見解や過去の判例は「知らない」と一蹴し、「鉄道営業法に則り…」の一点張りであった。
結局、女性専用車両は強制であるから、しつこいお願いをして男性を排除しようとしても問題ない、という屁理屈である。また、駅員が私に「迷惑ですから」と言ったことについても、「係員の制止を無視することについては何も思わないのですか?」と完全に開き直ってきた。
とどのつまり、近鉄は国土交通省の見解どころか不当な差別を禁じている我が国の憲法や法律も知らずに女性専用車両を運行しているわけである。まったくトンデモない話である。
近鉄に対しては徹底的な抗議が必要で、「強制」発言を撤回させることが急務である。
当会ではこれまで、多数の鉄道事業者に対し「女性専用車両が任意か強制か」について問い合わせてきたが、本社の社員が「強制である」とはっきり回答したのは、今回の近鉄が初めてである。
近鉄本社の社員が勝手にそう言っているだけなら、単に近鉄本社の社員の認識不足(不勉強)であるが、国土交通省や他の鉄道事業者も含め、全体としての認識・考えかたが変化してきている可能性も、(そのようなことはないと確認できない限り)可能性としては否定できない。
そこで、複数の当会メンバーが国土交通省に問い合わせを行った。
国土交通省へ問い合わせ
過去に当会サイトでも公開しているが、国土交通省が回答した、女性専用車両に対しての見解は以下のとおりである。
現在各鉄道会社で導入されている女性専用車両については、あくまでも利用者のご理解と任意のご協力のもとに行われているものであり、法的な根拠はありません。
女性専用車両はあくまでも男性利用者の任意のご協力のもとに実施されているものであることから、実際の運用に際して、駅係員等が誤乗車された方に対して呼びかけ、ご協力をお願いすることはあると考えます。
しかしながら、強制的に降車させるような行為は不適切と判断されることから、そのような事実があれば指導して参りたい。
ところが、当会メンバー(近鉄で乗車活動を行った会員とは別人)がこの件を国交省に報告したところ、担当者が電話に出ず、代わりに出た者はノラリクラリと応対し、近鉄の対応がまずいという事をなかなか認めようとしなかったらしい。
「国土交通省も態度を変えてきたか?」「近鉄の本社社員が堂々と『女性専用車は法に基づく強制的なもの』と答えたのもそのせいか?」と、当会内やネット上でも憶測が飛んだ。
しかし、また別の当会メンバーが改めて国土交通省に電話したところ、今度は別の担当者が出て、すぐに近鉄の対応がまずいという事を認め、その結果、近鉄に対し国土交通省から「指導」が行われることとなった。
やはり「女性専用車は法に基づく強制的なもの」という主旨の発言は、近鉄の本社社員の認識不足からのものだったようだ。
近鉄への質問状と、近鉄の回答
国土交通省からの「指導」という形で、この件、一件落着したかのように思えたが、一応近鉄が本当に認識を改めたのかどうか確認しておいた方がよいということで、当会内で「近鉄に質問状を出して、近鉄の会社としての見解を確認しよう」という話になり、その内容などについて当会の集会で話し合いがもたれた。
そして2012年11月、当会から以下の内容で近鉄に対し、公開質問状を郵送で提出した。
【公開質問状】
平成24年○月○日
近畿日本鉄道株式会社
社長 ○○○○ 殿
私達は「女性専用車両に反対する会」と申します。
2003年6月の結成以来、女性専用車両の問題点を指摘し、女性専用車両を撤廃するべく日々活動を行っております。
さてこの度、突然のことで失礼とは存じますが、貴社にお伺いしたいことがあり、本状を送付させていただきました。
1.貴社奈良線で導入されております女性専用車両に男性が乗車することは、約款等の規則で禁止されているのでしょうか、それとも任意なのでしょうか。
2.女性専用車両に男性が乗車することは、鉄道営業法に触れるというご見解でしょうか。また、男性が乗車していた場合、強制的に排除するようなことはあるのでしょうか。
ご多忙のところ誠に恐縮ではございますが、平成24年12月15日までにご回答いただきますようお願い申し上げます。
また、その際、出来ましたら、ご回答いただいた方のご氏名とご職名も添えていただきますようよろしくお願いいたします。
なお、いただいたご回答につきましてはその内容及びご回答いただいた方のご氏名・ご職名を当会にて公開させていただきますので、予めご了承下さい。
女性専用車両に反対する会 URL http://www.eonet.ne.jp/~senyou-mondai/
〒135-0061
東京都江東区豊洲1-3-1 ML20030622
女性専用車両に反対する会 福山 博
(郵便物が届かない場合がありますので、団体名及び受け取り人名は省略せずにご記入下さい。)
この質問状に対し、近鉄から返ってきた回答は以下のとおり。
女性専用車両に反対する会
福山 博様
謹啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
平素は近畿日本鉄道をご利用下さいましてありがとうございます。
このたび貴団体より頂戴いたしましたご質問につきまして、下記のとおり回答いたします。
今後とも近畿日本鉄道をご愛顧賜りますよう、お願い申し上げます。
謹白
記
弊社では、制度面といたしましては「任意」であると認識をしております。
また、女性専用車両に乗車されている男性を認めた場合、強制的に車両移動をしていただくのではなく、移動にご協力をしていただく案内に努めさせていただいております。
ただし、車掌は車内秩序保持に努める任務がありますので、車内におきまして、不審な行為や他のお客様にご迷惑となる行為等を認めた場合は除きます。
何卒ご理解のほどお願い申し上げます。
以上
近畿日本鉄道株式会社
鉄道事業本部
企画総括部営業企画部
担当:川端正行
「不審な行為や他のお客様にご迷惑となる行為」の定義が少々気にはなるが、近鉄も女性専用車両が任意協力であるということを会社として認めたとは言えるだろう。
私達が活動を行ったからといって、すぐに女性専用車両がなくなったり縮小されたりすることはないが、地道に活動を続けることにより、鉄道事業者や世間の人々の認識を変えるべく訴えかけていくことは、決して無意味ではない。
私達を含め、反対派が活動を行っていなかったら、今頃どこの鉄道会社でも、「女性専用車両に男性は絶対に乗れない」「もし男性が乗車していたら、強制排除しても構わない」という認識が当たり前のようになっていたであろうことは、今回の一件だけを見ても想像に難くない。
当会がこれまで何度も述べているように、公共の交通機関で、男性を男性であるというだけで特定の車両から排除することは出来ない。
「女性専用車両」という名前がついていても、実は性別や年齢・障害の有無に関わらず誰でも乗れるのに、鉄道事業者は「女性専用」という虚偽の表示を出し、「実は男性であっても誰でも乗れる」という事実を利用客に隠し続けている。
つまり、多くの利用客は鉄道会社に騙され続けているのである。
そして、そうした「ウソ」を許さないという意味でも、私達は活動しているのである。