Case8.賛成多数になるまで繰り返しアンケート!?(札幌市交通局)
2008年2月22日の早朝、衝撃的なニュースが飛び込んできた。
札幌市が市営地下鉄に専用車の導入を検討することを発表したというのだ。
札幌市は地下鉄の混雑度自体が低いということや痴漢被害が少ないということで専用車の導入には消極的だった。
もっとも札幌にも専用車導入を訴えている勢力は存在していて、同市は2005年10月~2006年3月の期間に交通局のサイト上でアンケートを行なっている。
そのアンケートでは否定的な意見が多かったということで専用車導入は見送られていた。
ところが2007年9月13日に東豊線で女性客が男性に切りつけられた事件を受け、公明党が専用車導入の要望を出したことで2008年1月に再びアンケートが駅利用者を対象に行なわれた。
その結果、「必要」が「不必要」を上回ったことで、2008年夏以降に専用車を試験導入するらしい。
不思議なことに、導入対象となる路線と時間帯は決まっていない。
普通に考えれば痴漢被害が著しく多い路線・時間帯があるからその対策を検討し、考えられるいくつかの選択肢の中から専用車が選ばれる。
というプロセスになるはずなのに、札幌市の場合「専用車の導入」が先にあって、「専用車がどのように必要なのか」がはっきりしていない。
もし導入の理由が痴漢被害の増加であるとするならば被害件数が多い路線・時間帯がおのずと導入対象になるはずだし、仮に理由が傷害事件だとするならば、たまたま今回の事件が加害者男性・被害者女性となっただけで、本来性別が関係しない事柄を理由に専用車が導入されることになる。
これだけでも専用車がもはや導入自体を目的化されてしまっていることが分かるだろう。
このニュースの発表後に交通局サイト上でアンケート結果が発表されていたので、以前発表されていた2005年10月~2006年3月に行なわれたアンケート結果と今回の2008年1月のアンケート結果(下記URL)を比較してみた。
http://www.city.sapporo.jp/st/senyo/cyosa-kekka.pdf (現在はリンク切れ)
前回(2005年10月~2006年3月)のアンケート(自由記述を交通局が分類)
(1) 肯定的な意見
- 痴漢防止として有効である:54件
- 痴漢誤認防止になる:11件
- 他の事業者でも導入している:10件
(2) 否定的な意見
- 男女差別になる:53件
- 女性専用車両以外の混雑を招く:44件
- 首都圏などより混雑率が低いので不要:31件
- 利用したい(階段に近いなど)車両に男性が乗れなくなる:15件
- 首都圏などより痴漢の被害が少ない:11件
- 他の痴漢対策を実施すべき:10件
今回(2008年1月)のアンケート(選択式)
●必要とする回答者の理由
- 痴漢被害が減少する:男・233/女・255
- 女性、子供が安心して乗車できる:男・354/女・400
- 痴漢に間違われる心配がなくなる:男・178/女・77
- 異性と同じ車両に乗らなくてよい:男・21/女・42
- その他(必要):男・38/女・44
●不必要とする回答者の理由
- 女性専用車両以外が混雑する:男・207/女・153
- 利用したい車両に乗れなくなる:男・199/女・205
- 乗車後の車両間移動ができなくなる:男・67/女・63
- 女性がほかの車両に乗りづらくなる:男・54/女・124
- その他(不必要):男・147/女・187
- 無回答:男・67/女・62
これを見てみると、今回のアンケートの不必要の理由がいずれも乗り降りの不便さに関わるものばかりになっている。
前回のアンケートでは否定的な理由で「男女差別になる」がトップだったのに、今回はそれを反映させられる選択肢が存在していない。
つまり「専用車は男女差別になるから不必要」と考えている人は無理矢理「女性専用車両以外が混雑する」等の別の理由を選ぶか、「その他」に含まれるしかないわけで、実際「その他(不必要)」の回答数は「その他(必要)」の回答数を遥かに上回っている。
専用車関連のアンケートを実施するのであれば「男女差別」というのは避けて通れない問題であることはわかっているはずだし、ましてや前回のアンケート結果という参考資料があるのだ。
これでは「男女差別」という問題を意識的に伏せておいて、「反対派は乗降の不便さという瑣末な点にこだわっている」という印象操作の意図が感じられる。
そして札幌市は「試験導入」「検討」と遠慮がちな表現で発表しているが、ここまで来てしまえば推進派は今回の発表を言質にとって“試験導入”を実行させるだろう。
そして試験導入→本格導入→実施内容拡大のベルトコンベアーに載ってしまうことは火を見るより明らかである。
札幌の方々が「とりあえず試験的に行なって、さしたる効果が無ければやめるのだろう」と勘違いして、専用車に安易に賛成してしまうことがないように願う。